<注意>
苔の栽培方法に正解はありません。苔栽培は環境や技術に大きく影響します。また、様々な方の生産方法や理論をまとめているため、それぞれの記事で矛盾が生じることがあります。あくまで方法論の一例として参考にしてください。
秋田の苔生産者Tさんのお話を元に、苔栽培における種苔の調製についてまとめました。
種苔を作る際は、
①成長した苔を回収し
②よく乾燥させた上で
③ガーデンシュレッダーにかけ
④粉砕物をふるいにかける
という作業を行います。
収集した苔をガーデンシュレッダーにかける
種苔にすべく回収した苔の状態は様々で、土や石などが混ざることもあるかと思います。大きめの石などはなるべく除去した方が機械に負担がかかりませんが、作業効率上すべてを除いてはいられませんので、ある程度は一緒にかけてしまうことになります。また、苔はしっかりと乾燥させた上でガーデンシュレッダーにかけましょう。苔を乾燥させることで粉砕がうまく行きやすくなり、また播種後の発芽率が高まる傾向があるようです。
ところで、ガーデンシュレッダーは本来、樹木の枝葉などを粉砕し、カサを減らすのが目的なので、細く柔軟性のある苔を粉砕する能力はあまりなく、細かくなる部分もあれば、「ほぐされる」くらいの状態になる程度になる部位もあります。
ここでは特にそれで問題なく、粉砕されないからと何度もシュレッダーにかけなおす必要はないでしょう。しっかり粉砕したい時はまた別の方法を検討する必要があります。
また、ガーデンシュレッダーにかけることで、苔を粉砕すると同時に、苔にくっついていた土や夾雑物と苔とを分離する、というのも大事な目的になります。
ふるいにかけ、一番種と二番種に分ける
これはかなり特徴的な方法論かもしれません。
ガーデンシュレッダーにかけた種苔をふるいにかけ、
ふるいに残る一番種と
ふるいから落ちる二番種
に分けた上で、目的に分け使用する、というやり方があります。
ふるいに残る「一番種」には、比較的成長部位に近いフレッシュな部分が残ります。
苔の中でも比較的古くなった組織はシュレッダーで粉砕されやすいようで、結果として、ふるいから落ちる「二番種」には、比較的古い組織が残りやすい、という傾向があるようです。また種苔に混ざった土や小石、枯れ枝などの夾雑物も古いからおち、二番種の方に混ざることになります。
苔を育てているとわかりますが、成長部位に近い部分は芽出しが早く、また成長も早いです。
一方で古い部位は芽出しが遅く、新芽の成長も遅い傾向があります。
収集した種苔全体を栽培に使用すると、そういった古い部位、新しい部位が混在してしまうため、どうしても成長の早い部分、遅い部分のムラが生まれ、結果として生産サイクルが長くなってしまいがちです。
成長の早い一番種だけのみを育てることで、出荷までのサイクルを早めることができる、というわけです。
一番種には雑菌の多い土や夾雑物が少ないため、病害等のトラブルも起こりにくいようで、これも生産サイクルを早め、また歩留をよくすることにつながります。
苔の生産は時間をかけるほど雑草が生えてきたりと、とにかく手間がかかるようになります。手間を考えても、ビジネスベースで考えても、いかに早く仕上げるか、というのがとても重要です。種まきから3ヶ月程度で出荷グレードまで仕上げることができれば、余計な手間をかけず、効率的に生産ができるようになります。
(ちなみに、スナゴケに限らず、大抵の苔は3ヶ月程度でものになるそうです)
二番種の用途
それでは、二番種は使えないので捨ててしまうのか、というとそういうわけではありません。
芽出しや成長が遅いため、生産サイクルが遅くなりますが、急がない生産に使用することはできます。また、種苔を増殖させる目的で種苔地(種苔採取用の土地)に撒いておけば、それがいずれまた育った時に良質な種苔として役割を果たしてくれるようになります。
苔の栽培を行う上で、種苔をどのように持続可能な形で確保するか、というのはとても大切なことです。採取したら一部を戻し、自然栽培に近い形で増殖させる、ということができれば、常に種苔に困らず持続的に生産活動が行えることになります。
本記事の執筆に協力いただいた、秋田県のTさんに感謝申し上げます。
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